あいちトリエンナーレ2016より

今月23日まで開催のあいちトリエンナーレ2016を先週末見に行ってきた。

写真家や映像人類学者である港千尋氏が芸術監督を務めた今回のトリエンナーレ「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」は、創造しながら旅(キャラヴァン)を続ける人間がテーマとなっており、また人間以外の動物や生物との関わりも重要な要素になっている。個人的には視覚的に楽しめる作品だけではなく、ポリティカルなテーマを持った映像作品などが多く見られたので充実した時間を過ごせたのだが、北海道や沖縄、または他国の地域を紹介する際に起こり得る“自分たちとは別の民族”といったような視点を未だ持っているような気がしてしまった。しかしそういったバイアスを忘れさせるパワフルな作品もあったので、ここで2つ紹介したい。おそらく意識的にこの2作品は旧明治屋ビル会場内に隣同士で展示されていた。

 

○ソン・サンヒ(ソウル出身、アムステルダム在住)

『ビョンガンソェの歌2016人間性とはなにか』

時を経て世俗性を帯び男女の色恋沙汰(女性軽視の要素も含む)を歌うようになったビョンガンソェという韓国の歌や、歴史的事柄、戦争遺跡、小説など、様々な要素から引用し、物語を再構成する映像インスタレーション。複雑なレイヤーは音/映像/照明によって一つのシアターのようになっていた。

 

○山城知佳子(沖縄)

『土の人』〔3チャンネルヴィデオインスタレーション〕

一見、沖縄戦を描いているようだが、しばらく見ていると韓国語が使用されていたり、戦争当時のアーカイブ映像とクラブでのダンスシーンが織り交ぜられていたりと、フィクションであることに気付く。琉球新報には以下のように記述がある。

 「土の人」は鳥が運んで来た種を一時的記憶喪失に陥った土の人が受け取り、その種の声を聞いて記憶を取り戻していく物語。土の中に潜り込むと、東アジアの各国で同じ境遇の人と出会い、さまざまな交流を通して自分がやるべきことを思い出し、自分を取り戻すという不思議なストーリー展開だ。

リンク:http://ryukyushimpo.jp/news/entry-281324.html

両作品はポリティカルなテーマを扱いつつも、多角的な視点を持ち何か新しい可能性に挑戦している。ソン・サンヒ氏は「世の中を動かしている人ではなく、世の中に動かされている人々」に着目して制作を行っているようで、また山城知佳子氏の沖縄だけではない普遍性を思わせる作品にはいつも驚かされる。こういった作品を通して、知識として何かを得るだけではなく、音や映像を通し感覚的に何かを掴むことでとても充実するように思う。